テラスのテーブルにさくらんぼを広げて、ひとつひとつ種取り仕事。
ときどき、さくらんぼをつまみ食いしつつ、足元に擦り寄る猫たちの相手もしながら、無心になれるひととき。
日陰に映った木々の影がテーブルに舞い降り、ゆらゆらきらきらと風が吹くのに合わせて揺れる、ひとりきりで過ごす静かな朝。
週末の早朝は、まだパリジャンは寝坊をしているので、とても静か。
アパルトマンの少し向こうのほうにある森の小鳥がテラスの側のマロニエの大木にやってきては、この季節は恋人を呼んでいるのか、早朝と夕暮れ、そして雨の後には決まって嬉しそうな様子で素敵なメロディを奏でてくれる。
そして、それに重なるように控えめな音で奏でられるのは、隣人のおじいちゃんが選んだクラシック音楽。彼はいつも、趣味の良い音を小さな音で愉しむ。今日はバッハだった。
彼の部屋に陽が射す時間になると、窓辺にクッションを置いて仰向けに寝そべり、静かに目を閉じてしばし音楽に聴き入るのが彼の日課。
そんな時は、私もその恩恵にあずかって、彼の選曲した音に耳を傾けることにしている。
目があったら、「ボンジュール。今日は気持ちがいいお天気ですね。」と、どちらからともなく声を掛け合う。
それだけの関係なのだけども、隣人との距離が遠いようで近い、パリのアパルトマンの人間関係の距離感はとても心地いい。
猫たちも太陽の恩恵を浴びて、特等席で日向ぼっこ。
シンクロナイズド・シエスタ。
ほかほかに体が温まると、日陰に移動して、身体を冷ましたら、また日向に。
エピキュリアンな猫の人生。
さくらんぼが美味しい時期に、申し合わせたように花開くジャスミン。
自然のリズム。
7年前に植えたジャスミンは、すっかりテラスの壁を覆うほどに成長した。
薫風がテラスを撫でるようにそよぐ。
猫らが樫の木の椅子を譲ってくれたので、花見珈琲でいっぷく。
さくらんぼの種が取れたら早速、おやつ作りにとりかかる。
メズィエール村の恵みのさくらんぼ を、たっぷりと贅沢に使ったクラフティを作ってみた。
卵、バター、牛乳、小麦粉だけで作る、とてもシンプルで家庭的なデザート。
- さくらんぼクラフティ -
〈 材料 〉 約4人分
さくらんぼ 200 g *種を抜いておく
卵 1.5個
砂糖 40 g
小麦粉 60 g *ふるいにかけておく
バター 15 g *室温でやわらかく溶かしておく
牛乳 30 cl
1. ボウルに全卵を割り入れ、しっかり混ぜる
2. 1.のボウルに小麦粉を何度かに分けては混ぜる
3. 前準備として別のボウルに、バターと砂糖を合わせておく
4. 2.のボウルに少しずつ牛乳を加え、ダマにならないように気をつけながら混ぜる
5. オーブンを200度に余熱準備
6. 容器にバター(分量外)をうっすら塗り、チェリーを並べる
7. 4.を容器に静かに流し込む
8. 先ずは200℃で10分間、焼く
9. 取り出して、3.の砂糖入りのバターを少しずつつまんで、表面にちりばめる
10.180℃で25分間、さらに焼く
常温になる少し手前でサーヴして食べるのがおすすめ。
冷蔵庫で冷やすと、食感が引き締まってまた違う美味しさに変化するので、どちらも試してみてほしい。
切り分けたクラフティに、軽くホイップしたクリームや、アイスクリームをお好みで添えても。
レシピの倍量でたっぷりと作った、我が家のさくらんぼクラフティ。
ぽってりとした名も知らぬ窯元の骨董オーヴァルの陶器で焼いてみた。
その雰囲気に合わせて、素朴なカンペールのお皿をチョイスしてみたら、パリにいながらまるで田舎の一軒家のようなムードに。
乳製品の美味しい国フランスならではのアレンジで、ブルターニュ地方の有塩BIOバターで作ったところ、甘塩っぱさがとても良かった。きっと、アルザス地方のデザートワインとも相性が良さそう。
お酒が好きな方は、レシピの生地にキルシュを数滴たらせば、一気に大人味に。
さくらんぼの他に、プラムやアプリコットのような少し酸味のあるフルーツで代用しても。
日本の少し熟れた梅で作っても、美味しそう。
また来年、たくさんの実がなりますように。
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